研究概要 |
本研究の目的は生命の維持に必須である消化器官の形態形成と,主として上皮細胞の分化に関わる分子発生生物学的,細胞生物学的,実験発生学的研究を行うことであった。本研究では,ニワトリ胚消化管の領域化に関わる遺伝子の機能解析,形態形成(主として胃腺形成)に関わる遺伝子,成長因子,転写因子などの機能解析,および上皮-間充織相互作用に関わる遺伝子の同定を目的とした。 領域化に関わる遺伝子としては,前胃と砂嚢の間充織において異なる発現パターンを示すいくつかの新規遺伝子がクローニングされ,それらの産物は間充織の分化に関わることが示された。とくに前胃と砂嚢で顕著な相違を示す平滑筋の分化については,平滑筋分化因子CFKBP/SMAPの遺伝子がクローニングされて,消化管の最外縁に平滑筋層が発達するしくみが解明された。前胃の形態形成と細胞分化については,成長因子EGF,上皮細胞が産生するsonic hedgehogなどが主要な役割を果たすことが示され,また前胃腺上皮で発現するニワトリ胚期ペプシノゲン遺伝子の転写調節についてはSox, GATAなどの転写因子が重要であることも詳細に明らかにされた。最後に,上皮-間充織相互作用に関わる因子としてBMP2が同定された。BMP2は腺形成を著しく促進し,一方BMPのアンタゴニストであるノギンは腺形成を完全に抑制する。間充織因子としてのBMP2の同定は消化器官,とくに胃の形成の分子機構を解明することに大きな情報を与えると思われる。全体を要約すると,本研究では消化器官とくに前胃について,その成立から腺を形成して機能的に分化するまでのプロセスについて,鍵となる遺伝子が数多く同定された。
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