ジアシルグリセロール(DG)キナーゼは、膜リン脂質代謝により生じる二次伝達物質・DGの代謝酵素であり、DGをリン酸化しフォスファチジン酸(PA)を産生する。我々はこれまでラット脳cDNAライブラリーから4種のDGキナーゼアイソザイムの遺伝子クローニングを行い、このDGキナーゼの分子多様性の意義を発現局在の多様性の観点から追求し研究を進めている。本研究ではとりわけIV型DGキナーゼ(DGK-zeta)についてその細胞内局在を検討した。IV型DGキナーゼは、他の分子と異なり核内局在を示唆する核移行シグナルと蛋白間相互作用を示唆するアンキリンリピートを持つユニークなものである。特異抗体を作製し脳における免疫組織化学的検索を行ったところ、IV型DGキナーゼの反応は、大脳および小脳の大部分の神経細胞の核内に様々な発現強度で検出された。特に大脳皮質第V層の錐体細胞や小脳プルキンエ細胞などの大型の神経細胞では核内の免疫反応も強く、加えて細胞体および樹状突起などにもび慢性の免疫反応が認められた。神経細胞核内の免疫反応は均一ではなく、粗な顆粒状に検出され核小体と思われる領域は陰性であった。次に、IV型DGキナーゼのcDNAを幾つかの断片に分離し、海馬初代培養細胞に遺伝子導入後、それらの細胞内局在を検討した。全長cDNAを導入した細胞では、脳切片と同様核内に強い局在が観察された。一方、核移行シグナルは含むがアンキリンリピートを有するカルボキシル基側約1/3の領域(C1/3)を欠失する変異体DGK-IVΔC1/3では、核内での反応が減弱し、大部分が細胞質に認められた。以上の結果により、IV型DGキナーゼの核移行には、カルボキシル基側に含まれるアンキリンリピートが関与する可能性が示唆された。
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