研究課題
我々は、リン脂質代謝により生じる二次メッセンジャー・ジアシルグリセロール(DG)の代謝酵素であるDGキナーゼ(DGK)に焦点を当て、その分子・局在・機能の多様性を追求している。この中で、IV型DGK(DGK-IV)は、核内局在を示唆する核移行シグナルと蛋白間相互作用を示唆するアンキリンリピートを持つユニークなアイソザイムである。我々は、このIV型DGKの神経細胞における機能的役割を追求する目的で、その特異抗体を作製し、脳切片および培養神経細胞における局在を検討した。IV型DGKの免疫反応は、大脳皮質、海馬、および小脳顆粒細胞では核内に優位な免疫反応が認められたが、小脳プルキンエ細胞では核内に加え、核周部および近位樹状突起にも免疫反応が検出された。神経細胞核内の免疫反応は、均一ではなく粗な顆粒状に検出され、核小体と思われる領域は陰性であった。また培養下の小脳顆粒細胞では、IV型DGKの免疫反応が核周部細胞質に優位に検出され、核内の反応は減弱した。以上よりIV型DGKは神経細胞において核-細胞質間を移行する可能性を持つことが示唆された。さらに我々は、IV型DGKと同様に核移行シグナルとアンキリンリピートを持つ新しいアイソザイム、V型DGKをクローニングした。V型DGKは、1051個のアミノ酸からコードされており、分子量は116kDaと推定され、IV型DGKと58%の相同性を示していた。V型DGKも、核移行シグナルの存在からIV型と同様に核内に局在する可能性が強く示唆されており、神経細胞の核内ではこの両者が共に機能していると考えられる。今後、この両アイソザイムの核内局在化機構および本酵素が関わるリン脂質代謝機構と神経細胞機能との関連をさらに追求して行く予定である。
すべて その他
すべて 文献書誌 (1件)