ニューロフィラメントは軸索内の細胞骨格を構成している重要なメンバーの一つで、安定重合型の比率が特に高い。今回我々は再生にともなう細胞骨格の再編成機構を知るために、ラットの坐骨神経を用いてニューロフィラメント蛋白の溶解性と軸索内輸送の変化を調べた。 フォスファターゼ阻害剤の存在下にラットの正常坐骨神経を1%Triton入りの緩衝溶液で処理すると、ニューロフィラメントの高分子量サブユニット(NF-H)の15-25%が可溶性画分として回収される。一方、再生しつつある神経では、障害部位より遠位側にあるニューロフィラメント蛋白は1週間以内にすべて分解消失してしまうが、2週間後にこの部位まで伸長してきた再生軸索内では可溶性画分に回収されるNF-Hサブユニットの割合が50%以上に増加していると同時に、C-末端部分のリン酸化レベルも低下する。このようなNF-H可溶性の増加は障害部より近位側の軸索内を輸送されている標識蛋白でも認められる。これに対して低分子量サブユニット(NF-L)の場合には正常軸索でも、再生軸索でも可溶性画分に回収されることはない。これらの観察から、軸索が再生している時にはニューロフィラメント全体が脱重合するのではなく、NF-Hのみの選択的な離脱が起こるものと推定され、細胞骨格を組替えて再生に対処する早期のトリガーになっていることが示唆された。
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