本研究の目的は海馬の神経ネットワーク振動の成因を解明することである。平成11年度に回路バースト活動を高速フォトダイオードアレイによって観察を試みたところ、集団的活動に対応する信号が平均化されて観察されてしまうことが判明した。そこで本年度は以下のような研究を実施した。1)電気生理学的手法を用い、GABA受容体が興奮性シナプス電位の加算をどのように修飾するかを検討し、GABA受容体がEPSPの加算に非線型性を与えていることをみいだした(印刷中)。この結果は抑制性ネットワークの活動の位相に応じて、興奮性細胞の樹状突起におけるシナプス応答が修飾される事を示唆する発見である。2)電位感受性色素を用いた高速電位イメージングによって、GABA_A受容体を介する脱分極性応答が成熟動物の歯状回顆粒細胞に見られる事を発見した(投稿準備中)。この結果は、成熟動物の海馬におけるネットワーク振動の成因としてGABA作動性介在ニューロンから興奮性細胞への脱分極性シナプス伝達が重要な役割を担っていることを示唆するものである。3)Ca感受性色素を回路網内の限定された個数の神経細胞に負荷する手法を開発した。この手法はネットワーク振動時の協同的神経活動を解析するための強力な手段になると期待している。この手法を電位感受性色素にも応用する計画である。4)また、電位感受性色素の開発については緑色タンパク質(GFP)とオキソノール系電位感受性色素との間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を示唆する信号を得ており、その効率化に向けて研究を進めている。
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