研究概要 |
経験に依存する生後発達可塑性に組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)が関与するかどうかを明らかにする目的で、tPA遺伝子欠損(KO)マウスを用い第一次視覚野における眼優位可塑性について研究を行った.初めに、野生型(WT)マウスの発達に伴うtPA mRNA発現量の変化を調べた.tPA mRNAのレベルは生後初期に非常に高く成熟するに従い減少した.神経活動に依存してその発現が変化する前初期遺伝子egr-1の発現量は開眼後あるいはカイニン酸投与後に著しく増加したが、tPAの発現はこれらの条件で殆ど変化しなかった.次に、in vivoにおける視覚野可塑性レベルを調べるために、両眼性細胞領域より単一細胞記録を行った.動物は予め感受性期の4日間(短期遮蔽)あるいは開眼後より感受性期を渡る2週間(長期遮蔽)単眼を遮蔽し、それぞれの可塑性レベルを眼優位ヒストグラムを作成することにより比較検討した.その結果、無処置のt PAKOマウスの眼優位ヒストグラムは正常(contralateral b ias index,CBI=0.76±0.04,n=7)であったにも関わらず、短期(CBI=0.66±0.06,n=ll)あるいは長期遮蔽後(CBI=0.70±0.06,n=8)のヒストグラムは野生型のもの(短期,CBI=0.49±0.06,n=10;長期,CBI=0.44±0.04,n=10)と有意に異なり、可塑性レベルの調節・制御にはtPAが必須であることがわかった.また、tPA KOマウスではフラッシュ刺激に対し長期に応答する細胞がWTマウスに比べて7倍も多かった.しかし、egr-1発現量の暗闇飼育や視覚刺激後の変化は、tPAWTとKOマウス間で有意な差が認められなかった.現在、tPAはプロテアーゼとしてシナプス再編成を伴う経験依存的可塑性に寄与しているかどうかを検討中である.
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