研究概要 |
本研究の目的は、組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)の大脳皮質視覚野可塑性への関与について検討することにある.昨年度は、tPAの機能欠失型変異体マウス(tPA KO)の眼優位可塑性レベルが野生型(WT)に比べ有意に減少していることを明らかにした.本年度は、初めに同じく可塑性レベルが低下したグルタミン酸脱炭酸酵素の機能欠失型変異体(GAD65 KO,Science,282,1504,1998)とtPA KOの相違を検討した.その結果、1)GAD65 KOの可塑性を正常に戻すジアゼパム脳室内投与は、低下したtPA KOの可塑性レベルを高めることはなかった、2)単一神経細胞外記録から、tPA KOではGAD65 KO(70%の細胞にprolonged discharge)とは異なる細胞特性の異常(30%の細胞にsusutained responce)が認められた、3)tPA KOでは、グルタミン酸およびGABA含量は正常であったことが明らかとなった.昨年の神経活動マーカー(egr-1)の結果(GAD 65 KOではup-regulation,tPA KOでは正常)とあわせ、tPA KOはGAD65 KOと異なり興奮-抑制入力のバランスは正常であると考えられた.次に、tPA量の低下が欠損と同じく可塑性に影饗を及ぼすかを明らかにする目的で、tPAヘテロ接合体マウス(tPA Het)の眼優位性変化を調べた.その結果、感受性期内のtPA Hetの4日間単眼遮蔽の効果はtPA KO同様、WTに比べ有意に低下していた.一方、2週間遮蔽の効果は短期遮蔽のWTに匹敵した.また、テトロドトキシンを単眼に注入し4日間視覚入力を完全に抑えたところ、tPA Hetの眼優位性の変化はやはりWTに達しなかった.これら結果は、可塑性を惹起するには充分量のtPAが必要であることを示唆している.
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