近年、各企業は新規事業展開をどのように展開するかが、経営の最重要課題となっている。しかしながら、企業の新規事業戦略を考える上で基礎となる「新規産業の創出過程」については、ほとんどが分析されていない。そこで、本研究は、従来の新産業分析に欠落していた要素を整理し、再統合することにより新たなイノベーションプロセスを提示し、企業の事業戦略を構築するための分析フレームワークを提示することを目的としている。 本年度の主要な成果として、ITS産業に関する研究がある。ITS産業は、2015年に60兆円の市場規模が期待される新規産業である。しかし、その実現には、産業創出のための戦略を検討しなければならない。本研究では、戦略を検討するため、技術革新プロセスにおける二つの概念を提示した。一つは、技術融合という概念であり、もう一つは、潜在需要を技術課題へと翻訳し、その成果を統合する需要表現という概念である。技術融合とは、複数の技術の単なる組み合わせではなく、1+1が3になるような飛躍的な技術革新プロセスである。ITS産業の創出には、技術融合によって、飛躍的な技術革新が必要であり、また、情報・サービスも含めた産業融合も必要である。さらに、新規産業のように需要が未だ明確になっていない産業においては、需要表現という技術革新プロセスが重要である。特に、ITS産業のように多くの業種が関わる新規産業では、一企業、一業界あるいは一省庁のみの需要表現では十分でない。すなわち、国家レベルにおいて、技術課題への翻訳プロセスが必要となるのである。そして、国家の需要表現システムには、技術課題翻訳プロセスの階層性、開発プロジェクトの多元性が重要である。 以上の成果は自動車走行電子技術協会20周年記念誌において、「政策融合と需要表現によるITS産業の創出」として発表し、自走協20周年記念懸賞論文優秀賞を受賞している。
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