現在、わが国の多くの企業が、事業の成熟化により、新規産業分野への進出を目指した新規事業展開を戦略的に行っていくことが問題となっている。しかしながら、企業の新規事業戦略を考える上で基礎となる「新規産業の創出過程」については、ほとんど明らかになっていない。そこで、本研究では、「新産業の創出過程」に焦点をあてた分析を行う。近年のイノベーション・プロセスは、古典的な線形プロセス(Linear Process)として議論することはできない程に多面性を持っており、非線形なプロセス(None-linear Process)として捉えることが必要である。この多面性を捉えるために、新産業の創出過程を大学依拠型イノベーション・異業種間競争・新技術の需要予測手法という3つの視点から分析し、従来の新産業分析に欠落していた要素を整理し、再統合することにより新たなイノベーションプロセスを提示し、今後の新規産業創出過程及び新規産業への進出を目指した企業の事業戦略を議論するためのフレームワークを提示することを目的としている。 本年度は、大学依拠型イノベーションにおけるエージェント機能の解析を行った。事例分析によって、イノベーション・エージェントの最も重要な機能は、理解能力であることが分析の結果により分かった。また、事例分析及び定量分析によって、異業種間競争のプロセス及びメカニズムを分析した。新規産業とされる産業において、異業種間競争によって新しいイノベーションが登場していることが分かった。さらに、新技術の需要予測手法開発としては、定量分析の基礎となる市場成長モデルの構築を試み、二重ロジスティックモデルというモデルを構築した。
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