研究概要 |
成長ホルモン(GH)濃度が高く,インスリン様成長因子(IGF-1)-1濃度が低い矮小体躯の黒毛和種牛においてレセプターアッセイにより,GHレセプター発現量を測定した.矮小体躯牛では,発育期における肝臓のGHレセプター発現量が少なく,成長するにつれて正常発育牛と同等になった.また,年齢が2歳を超え,成牛となった後の矮小体躯牛に遺伝子組替ウシGH(ソマトトロピン)を筋肉注射したところ,2日後から血清IGF-1濃度は上昇した.この所見は,矮小体躯であっても成牛ではGHレセプターからIGF-1合成までの経路は正常に作動していたことを示す.GHレセプター遺伝子のエクソン1,2および4についてDNAをシークエンスしたところ,これらの塩基配列には矮小体躯牛と正常発育牛との間に差異は認められなかった.したがって,ラロン症候群が疑われた矮小体躯の黒下和種牛は,GHレセプター遺伝子のDNA塩基配列が異常であるラロン症候群とは別の病態であった.この矮小体躯牛は,GHレセプターの発現が成長期に限って低い値を示すことから、その発現をコントロールする因子に異常があることが示唆された.成長期にGHレセプターを制御する因子については未知の部分が多く,詳細についてはさらに検討中である.また,本症は特定種雄牛が関連して発症することが明らかとなっているが,疫学調査では,特定の遺伝様式をとるかどうかは確認できなかった.本症に関連する種雄牛は,矮小体躯症の産子が10%以上に達したため,黒毛和種との交配には用いられず、ホルスタイン種との交配にのみ用いられるようになり,現在は当該地域において黒毛和種牛の矮小体躯症の発症は減少している.
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