本年度は、サファイアアンビル高圧装置圧力室の試料に対してパルスレーザーを照射して熱膨張を誘起させ超高圧を発生させる熱膨張拘束による高圧発生法について検討した。サファイアアンビルについて検討した理由は、ダイヤモンドと比較して強度は著しく劣るが、(1)透過率が良いこと、(2)熱伝導率が小さく高温発生に有利であること、(3)大きな結晶が得られるので、大きな容積を持つ超高圧領域発生の可能性があること、および(4)安価であるので実験の失敗による破損が許されることである。サファイアアンビル高圧装置において、メタノール/エタノール混合液あるいは不活性ガスなど液体を圧力媒体として用いた場合では、約3GPaの高圧発生が限界であるが、固体粉末を圧力媒体として用いると10GPaの高圧発生が可能となることがわかった。そこで、圧力媒体として光吸収係数が大きい不透明な固体粉末を用いれば、レーザー加熱効率の点からだけでなく、ルビー蛍光線スペクトルによる圧力の測定の点からも有効であることがわかった。すなわち、ルビー粒子を圧力測定系側のサファイアアンビル圧力面近くに置き、それと反対側のアンビルを通してパルスレーザーを照射すれば、高温部からの輻射光がルビー蛍光スペクトルの測定に影響を及ぼすことがない。実際、パルスレーザー光をサファイアアンビル高圧室内において10μm〜1mmの範囲に絞ることができるレーザー照射顕微鏡を試作し、これを測定システム側の対物レンズと対抗する位置に設置してレーザー照射を行った場合、輻射光の影響を受けることなくスペクトルの測定が可能であることを確認した。このように、圧力室内の完全な静水圧性を犠牲にすれば、固体を圧力媒体と同時にエネルギー吸収体として用いる単純な試料構成で実験が可能になることがわかった。この構成はダイヤモンド焼結や水素金属化を目指す実験に対して適用できることが判明した。
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