本研究では、『表面の電荷を素電荷レベルで安定に原子分解能観察できる静電気力顕微鏡を開発すること』を目的とした。特に、本年度は、静電気力を原子分解能で測定するための観察条件について理論的・実験的に検討する。また、静電気力を原子間力と完全分離し、表面構造と表面電荷を原子分解能で測定できることを実証した。具体的な成果は、下記のようになっている。 1)表面の電荷を素電荷レベルで高分解能に測定するための観察条件の理論的検討 静電気力を原子分解能で測定するためには、原子間距離に相当する間隔まで、探針先端を試料表面に近づける必要がある。そこで、表面の個々の素電荷を分離して観察するために必要なばね定数の大きさについて理論的に検討した。 2)表面の電荷を素電荷レベルで高分解能に測定するための観察条件の実験的検討 ガリウム砒素の(110)劈開面を加熱し、表面に点欠陥を生成させる。この点欠陥のもつ電荷を安定に原子分解能観察するために必要な引力勾配の大きさを実験的に解明した。 3)原子配列構造と電荷の完全分離の実証 n型のガリウム砒素の劈開面に酸素を吸着させると、イオン化した吸着酸素の周りに長距離電荷遮へい効果が現れることが知られている。そこで、この吸着表面を静電気力顕微鏡で測定し、酸素の吸着した表面の原子配列構造と電荷分布(具体的には、負にイオン化した吸着酸素とその周りの遮へい電荷)を原子レベルで完全分離できることを実証した。
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