研究概要 |
フィッショントラック(FT)年代とFT長解析を堆積盆の古地温勾配の推定に応用した.試料として中国東北部松遼盆地・大慶油田から掘削されたいくつかのコアを準備した.これら試料からジルコン・アパタイトを取り出し,FT年代の測定,FT長の測定を行った.ジルコンのFT年代は101-120Maを示し,FT長は8ミクロン以下の短縮したトラックを全く含まない単一ピークの頻度分布を示した.燐灰石中のFT年代は盆地周辺部では96-118Maを示したが,盆地中央部では20-45Maという著しく若い年代を示し,深度の増加とともに若い値を示す傾向が見られた.既報の年代データをもとに試料が被った埋没深度曲線を復元し,さらにいくつかの地温勾配を仮定し,それぞれの地温勾配下での埋没作用に対して順解析を行った.このことによって得られた各地温勾配におけるFT年代値の深度による変化傾向と,実際に観察された年代値の変化傾向を比較検討した.その結果,実測値を最もよく説明する地温勾配は40-45℃であることがわかった.FTの熱による短縮傾向は時間よりもむしろ熱に対する感度(温度依存性)が強いことから,推定された地温勾配は,現在からさかのぼり20-50Maの期間の平均的な熱構造を反映しているものと考えられる.このように温度-時間依存型の指標であるFTアニーリングが堆積盆の古地温勾配の推定に有効であることを示した. 一方国内の隠岐道後に分布する花崗岩類について,貫入岩脈の熱によるFTアニーリングを調べ,熱履歴の復元を試みた.隠岐道後の花崗岩類が,約5Maの貫入岩脈の広域的熱源により200℃に達する被熱を経験したことが明らかとなった.FTアニーリングが貫入岩脈による熱の評価にも有効であることを示した.
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