研究概要 |
我々は島弧マグマの発生から噴火に至るまでの諸プロセスを定量的に議論するためのツールとして、TIMSを用いた火山岩中のU・Th同位体の精密測定法の開発を行い、それを三宅島火山に適用することで、我々の分析法が定量的議論に対し十分実用可能であることを示した。本分析法は従来法の測定精度を上回るものであり、三宅島以外にも適用することで、さらに火山噴火予知にむけたマグマプロセスの定量的理解が進むことが期待される。しかしながら、以下のような問題点も残った。 1)二宅島溶岩中の斑晶鉱物一(olivine, clinopyroxene, plagioclase)のU・Th含有量は全岩の1/100しかなく、これを用いて鉱物アイソクロンを描くことは不可能であった。 2)全岩アイソクロンの年代値のエラーは、分析点数の多いStage2でも11.9±2.1kyrであり、当初の目標であった誤差0.1kyrには及ばなかった。 1の問題は三宅島溶岩がもともと微量元素の少ないソレアイト質玄武岩であったことに起因している。一方2の問題は2っの原因が考えられる。まずは全岩アイソクロンであるがために、各溶岩間の不均一性が影響している可能性。これは鉱物アイソクロンを用いた結果と比較することで明らかになるはずである。次にアイソクロンの横軸であるU/Th比の変化幅が小さい点である。このような試料で高精度の年代値を出すためには単純にTIMSでのTh同位体比及びU・Th濃度の測定精度を現在より高めるしかない。現在我々が所有しているTIMSでは、本研究で達成した分析精度がほぼ機器の分析限界であり、次世代TIMS(Finnigan TRITON)を用いれば更に分析精度を向上させることが期待できる。これに加え、^<230>Thより更に半減期の短い核種である^<226>Ra(1600年)や^<228>Ra(5.76年)の非平衡を用いればタイムスケールの分解能を高めることができ、より詳細なマグマプロセスの解明につながるに違いない。
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