研究概要 |
時間分解ラマン分光法は,短寿命種の分子構造とダイナミックスに関する情報を,同時に得ることができるという大きな利点を持っている.しかし,時間分解ラマン分光法の弱点は,試料を励起するためのポンプ光またはラマン測定のためのプローブ光によって,試料の蛍光が誘起され,しばしばラマン散乱の測定が妨害されることである.本研究では,蛍光を回避するために有効な近赤外パルス(パルス幅が約2ピコ秒)をラマン励起光源とした,ピコ秒時間分解フーリエ変換ラマン分光計の開発を行った. モード同期・エルビウムドープファイバーレーザーをシード光としたピコ秒チタン・サファイア再生増幅器の基本波出力を用いて光パラメトリック発生・増幅器を励起した.得られたシグナル光出力(波長範囲:1060-1350nm)を,励起状態の試料からのラマン散乱を測定するためのプローブ光として用いた.分光計にはステップ走査型フーリエ変換ラマン分光計を用いた.プローブ光によるラマン散乱光をフーリエ変換ラマン分光計に導き,検出器からの干渉信号をボックスカー積分器で検出し平均化した後,分光器のA/D変換器でサンプリングした.得られたインターフェログラムをフーリエ変換してラマンスペクトルを得た.このサンプリング法により,数mWのプローブレーザーパワーでも数十分の測定時間で,比較的S/N比の良いスペクトルを得ることができた. 試料にポンプ光としてピコ秒チタン・サファイア再生増幅器出力の第二または第三高調波(波長:388または258nm)を照射して短寿命過渡種を生成させ,一定の遅延時間の後プローブ光を照射することにより,時間分解ラマンスペクトルを得ることができる.
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