研究概要 |
生体系に存在する酸素添加酵素および酸化酵素に焦点をあて、酸素の捕捉・活性化機能を有する酵素のモデル錯体を合成し、その構造モデルおよび機能モデルの構築を目指して検討してきた。本研究では特に酸素の可逆的脱着や過酸が付加した不安定中間体の捕捉確認に成功した。ドーパミンβ-ヒドロキシラーゼ、ガラクトースオキシダーゼ等においてその生物活性反応中間体として提唱されている銅(II)-ハイドロパーオキソ種の構造および酸素活性化機構の解明を目的として、BPPAを用いるその銅錯体とH_2O_2との反応を試みた。その結果、MeCN中660,830nmにCu(II)種に特徴的なd-d遷移と380nmにハイドロパーオキソ種からCu(II)へのLMCTが観測された。この錯体のESRスペクトルはg_<//>=2.004(A_<//>=109G),g_⊥=2.207(A_⊥=75G)で、trigonal bipyramidal構造に特徴的なスペクトルであった。また、この錯体の共鳴ラマンスペクトルはH_2^<16>O_2,H_2^<18>O_2の反応それぞれについてCu(II)に配位したハイドロパーオキソ種に由来するO-O伸縮振動が856,810cm^<-1>にそれぞれ観測された。更に、ESI-MASSスペクトルにおいても[Cu(bppa)(^<16>O_2H)]^+,[Cu(bppa)(^<18>O_2H)]^+に帰属しうるピークがそれぞれm/z=584,588に観測された。また、この錯体は非常に安定で、単結晶の作成にも成功しており、その結晶構造解析はOOHが銅(II)にend-on型で配位しており、配位子BPPAの空間的に開いている方向にそのベクトルを向け、OOHが配位子の疎水性置換基により保護され、水素結合により活性酸素が認識・捕捉されていた。これは溶液中で推定された構造とよく一致していた。これら不安定中間体の捕捉に成功したことは生体系金属酵素における反応活性中心近傍の環境を精密に再現できたものと考えている。
|