研究概要 |
生体内に存在する酸素活性化酵素における酸素の結合および開裂・分解等の分子機構の解明は酸化機能のみならず生命機能の観点から極めて重要で興味深い。また、このような研究は酸化触媒や酸化漂泊等工業的応用面からも極めて重要である。本研究では、この酸素の金属への結合、および酸素分子の開裂について、モデル錯体を構築して検討した。錯体としては、配位構造および配位環境を生体系から模倣し、その鉄や銅錯体を構築した。そして、酸素や過酸化水素との反応を検討した。その結果、(i)酸素の可逆的脱着能を示すヘムエリトリンモデルの構築に成功した。この機構の本質は適当な距離を保った鉄二核の配置と疎水的環境と橋掛け官能基である水素を保持したアルコール性水酸基の存在であることが明らかとなった。これはヘムエリトリンにおけるμ-ヒドロキソ基の役割の意義を示すものであり、興味深いものである。(ii)過酸化水素が配位した平面四配位を強制した銅錯体の合成・単離に成功した。また、この錯体と基質との反応を検討したところ、エポキシ化が進行し、二重結合性アルケンに対してnucleophilicな性質を示し、非ヘム銅酵素が示す酸素活性化機構の特性を明らかにした。これは、生体系の銅酸化酵素の存在意義を明確化に成功したものと考えている。(iii)N3型四面体構造を強制するcis, cis-1,3,5-triaminocyclohexane(TACH)を新規に合成し、その銅(l)錯体と酸素分子とを反応させたところ、di-μ-oxo-{銅(lll)(TACH)}_2複核錯体を形成し、その反応活性が極めて高いことを見い出した。これはこれまで報告されているdi-μ-oxo-{銅(III)(TACH)}_2型複核錯体の中で、最も反応活性の高いものであることが分かり、その構造活性相関を明らかにした。
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