研究概要 |
本研究では、レーザーフラッシュフォトリシスの検出器として組み込めるような時間分解赤外測光装置を試作し、実際に使用する事によって活性中間体の構造化学的研究を行う事を目的としている。限られた時間と予算の中で目的を達成するため、現有のFT-IRの光学系に高速ステップスキャン方式を導入したものを試作した。現有のナノ秒レーザーフラッシュフォトリシスの装置と同期させて使用するためにソフト的な改良も行った。その結果、吸光係数の大きなものなら数百マイクロ秒程度の寿命の中間体が測定できるようになった。 一方、紫外、可視光検出のレーザーフラッシュフォトリシスによる活性中間体の動的挙動の観測も行った。ベンゾシクロブテニリデンの反応性に関しては多くの議論があったが、これまでに観測されたことは無かった。今回ベンゾシクロブテノンから誘導されたN-(2-フェニルアジリジル)イミノベンゾシクロブテンやオキサジアゾリンを前駆体として室温、溶液中でのレーザーフラッシュフォトリシスを行った。エキシマーレーザー(XeCl,308nm)のパルス光を前駆体に照射すると450nm付近に弱いブロードな吸収を有する中間体が観測された。この中間体の寿命は1μs程度であり、種々のアルケンやアルコールと反応すること、また、ピリジンを添加するとイリドと思われる強い吸収が456nmに観測されてくることなどから、ベンゾシクロブテニリデンであると帰属した。この過渡吸収が消失した後、ジアゾベンゾシクロブテンと思われる比較的長寿命の吸収帯が510nmに残ることも示された。 試作した赤外測光装置で上記の光反応を追跡したところ、2042cm^<-1>にジアゾメチレン基に特有の吸収が観測され、その減衰速度から寿命は約1msであった。他の吸収帯の位置も理論計算のものと一致したことから観測した吸収はジアゾベンゾシクロブテンのものであると帰属できる。時間分解能がマイクロ秒程度に向上し、感度も改善できれば、ベンゾシクロブテニリデンやピリジンイリドの赤外吸収スペクトルの測定が可能になり、その構造化学的知見が得られると期待できる。現在、時間分解能と感度を改善すべく、装置の改良を行っている。
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