本研究は、InGaAsP系化合物半導体をベースとしたモノリシック光集積回路を効率よく作製するための基礎技術として、MOVPEプロセスにおける選択成長現象を有効に活用することを目標とした。MOVPEプロセスにおいて、化合物半導体結晶板上にシリコン酸化膜など、絶縁性の被膜を部分的に作製すると、絶縁被膜の上には結晶成長が一切起こらず、結晶基板上にのみエピタキシャル成長をする。このとき、結晶表面積と絶縁被膜表面積のローカルな比によって結晶表面での成長速度並びに化合物組成に変化が生じる。これを面積選択性と呼び、積極的に活用すると、絶縁被膜(マスク)を通常のリソグラフィによりパターニングするだけで、アクティブな発行素子、受光素子、ならびに光導派路などを一回の結晶成長により作製できる。この技術を高度に活用するために、本研究では、MOVPEプロセスにおける気相及び表面での反応過程解析を検討した。 昨年度は、特定の条件でMOVPEリアクター内でのプレーンな基盤表面上への製膜速度分布、組成分布を解析し、熱流体解析ソフト(CFD)によるシュミレーションと比較して反応機構の検証を行った。その結果、通常の条件ではIII族組成分布、成長速度分布を良好に再現でき、モデルの妥当性を確認できた。しかし、特にV族組成に関しては実験結果を再現できない点があり、基板上でのV元素の吸着・脱離が基板上に成長する半導体の組成に影響を受けている可能性があった。これを検証するため、今年度はエミッションIR分光法による成長表面の吸着種観測を試みたが、基盤ヒータまわりからの迷光などにより、有効な測定はできなかった。そこで、成長速度を半減させ、組成と成長速度の変化を検討してみたところ、従来用いていた反応モデルと速度データでは再現できないほど、組成に変化が現れた。これに対して、モデルの再検討を行い、表面での非線形な速度式を導入することが必要であることがわかった。また、面積選択成長を行った際に、プレーンな基板上に成長したエピタキシャル膜と組成が異なることもわかり、In系の製膜種が表面拡散・気相拡散が遅いために分布を持つことで理解できた。これらの知見を基に、面積選択成長によるモノリシック光集積回路の作製技術を高度化することが可能となった。
|