研究概要 |
InP基板に格子整合する新しいIII-V族混晶半導体TlInGaAsによる温度無依存発振波長半導体レーザの実現を狙いとした研究を進めている。TlInGaAsは半導体InGaAsと半金属TlAsからなる混晶半導体であり、報告者が提案したものである。この半導体は、適当な混晶組成において周囲温度に依存しないバンドギャップを示すと予測し、昨年度までにTl組成13%のサンプルでフォトルミネッセンス(PL)発光波長が極めて小さい温度依存性を観測した。この成果に基づき、今年度は、InP/TlInGaAs/InPのダブルヘテロ(DH)構造発光ダイオードを作製し、デバイスレベルでの発光特性の温度依存性を検討した。InP/TlInGaAs/InPDH構造は、ガスソースMBE(分子線エピタキシ)法により成長した。n形、p形ドーパントにはSi,Beを用いた。その結果、エレクトルルミネセンス(EL)発光が低温から350Kまで観測され、良質のDH構造が成長されていることが分かった。EL発光強度は注入電流に比例して増加した。EL発光ピークエネルギーの温度依存性は、PLピークエネルギーで観測された温度依存性と同様に小さいことが示された。Tl組成6%のTlInGaAsに対して、0.09meV/Kであった。更に、EL発光強度の温度依存性はPL発光強度の温度依存性よりも小さいことが観測され、両者でのキャリア注入プロセスの違いによるとして説明される。この結果はデバイスレベルでも温度無依存性を持つことが確認され、温度不感発振波長の半導体レーザ実現の可能性が出てきた。
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