InP基板に格子整合する新しいIII-V族混晶半導体TlInGaAsによる温度無依存発振波長半導体レーザの実現を狙いとした研究を進めている。TlInGaAsは半導体InGaAsと半金属TlAsからなる混晶半導体であり、報告者が提案したものである。この半導体は、適当な混晶組成において周囲温度に依存しないバンドギャップを示すと予測し、昨年度までにInP/TlInGaAs/InP DH発光ダイオード(LED)のエレクトロルミネセンス(EL)発光ピークエネルギーの温度依存性が、フォトルミネセンス(PL)ピークエネルギー同様に小さいことを示してきた。 今年度は、ガスソースMBE法により、InP基板上にTlInGaAs/InPダブルヘテロ(DH)のレーザ構造を成長した。まず、発光ダイオード(LED)を試作し、エレクトロルミネセンス(EL)ピークエネルギーの温度変化がPLの温度変化同様に小さいことを確認した。レーザ構造でも波長の温度安定性が良好なことが分かった。更に、電極ストライプの半導体レーザ(LD)を試作し、77-300Kでの電流注入パルス発振を達成した。発振波長は約1.6μmであった。発振しきい値電流の温度依存性はInGaAsP/InPレーザと同様の85K程度であることが分かった。周囲温度に依存しない発振波長の半導体レーザ実現の可能性が確認された。
|