研究概要 |
周囲温度の変動に依存せずに発振波長が安定な半導体レーザは波長多重の光通信において重要である。しかし、これまでの半導体レーザでは発振波長は周囲温度の変化につれて変動する。これは、主に半導体のバンドギャップが温度依存性を持つことによる。そこで、現用のシステムでは半導体レーザの温度をペルチエ素子を用いて強制的に定温度に保っている。我々は、この問題を解決するために、温度無依存のバンドギャップが期待される半導体として、タリウムを含む新しい半導体TlInGaAs, TlInGaPを提案し、その結晶成長、物性把握、レーザ作製の研究を行った。ガスソースMBE結晶成長法により、InP基板上に440-450℃の基板温度でそれらの結晶成長に成功した。Tl組成は成長中のTl供給量と共に増加することが確認された。バンドギャップエネルギーは期待通りにTl組成の増加と共に減少し、また、その温度依存性も減少した。特に、13%のTl組成のTlInGaAsにおいては、フォトルミネセンス(PL)ピーク波長の温度変化が0.04nm/Kと極めて小さい値が観測された。この値は光通信で現用のInGaAsP/InP DFBレーザの0.1nm/Kよりも小さい値である。我々が作製したTlInGaAs/InPレーザでは、エレクトロルミネッセンス(EL)ピーク波長は同様な小さな値を示し、室温パルス発振を達成した。しきい値電流密度5kA/cm^2、T_0値85Kと良好な値を示した。温度安定な発振波長の半導体レーザ実現の可能性を示した。
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