研究概要 |
従来の四段階推計法では対応できない,様々な交通施策の必要性が,今日大きなものとなっている.本研究では,このような社会的要請を満たすために,生活行動マイクロシミュレータ,ならびに,交通流シミュレータを統合した都市交通需要予測評価システムを構築した.当システムによって,交通政策が,動的な交通流,個人の生活パターン,そして,主観的な生活の質のそれぞれに及ぼす影響を,それらの相互作用を考慮した上で総合的に解析できるものとなった.当該システムを京都市,大阪市に適用したことで,従来の集計的な交通需要予測では評価することが困難であった,プライシング施策や自動車流入規制といった交通需要マネージ面とを中心とする各種交通施策を,実際に評価した.その結果,大阪市の適応事例より,交通需要マネージメントを実施せずに,自動車中心型の交通政策を将来にわたって続けた場合には,公共交通機関の利用者は,高齢化社会ともあいまって減少していく傾向にあるものの,適切な自動車利用抑制をかけ,公共交通投資を満たせば,交通機関を利用する需要は十分に見込めることが示された.また,京都市に適応した事例からは,様々な交通政策を,二酸化炭素排出量の観点から分析した結果,都心部における自動車流入規制が最大の効果を発揮することが示された. 一方,現実的な交通施策評価を行う場合,計算コストを現実的な範囲に収めることは,不可欠である.そこで,当システムの開発にあたって,アルゴリズムの最適化による計算コストの徹底的な削減を行うことを一つの重要な課題とした.その結果,実際の交通ネットワーク上での具体的な政策評価が十分に低い計算コストで実行可能であることが示された.パーソナルコンピュータを用いて,10万人の一日の生活パターンを再現するのに約5分であった.また,2000リンク規模の京阪神での道路ネットワーク上の24時間のシミュレーション計算が,ベクトル計算機を用いて20分程度であった,以上より,本システムに基づいて,適切な,かつ,効果的な交通運用管理方策を,現実的なコスト制約の下で,的確に検討できるものことが確認できた.この点が,最大の社会的貢献であると考えている.
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