研究概要 |
本年度は、高温熱電変換材料としてp型では高い性能を示すβ菱面体晶ボロンに金属をドーピングすることによって、電子-格子相互作用の強い系での熱電材料探索指針の確立を目指した。 放射光を用いて測定した粉末X線回折データから、リートベルト法と最大エントロピー法によりβ菱面体晶ボロン(B_<105>)の電子密度分布を求めた。結晶を構成するB_<12>クタスターやB_<28>ユニットの結合には、特異な三中心結合が存在することが明らかになった。また、B_<105>にFeをドーピングした場合のメスバウアー・スペクトルの解析から、A_1サイトをFe^<3+>として、DサイトをFe^<2+>として占有することが明らかになった。 B_<105>および金属ドーピングしたM_xB_<105>(M=V,Cr,Fe,Co,Zr)の電気伝導率の温度依存性は、ボロン・カーバイドのフォノン介助ホッピングとは異なり、可変領域ホッピング伝導機構によって、温度上昇とともに増加した。A_1サイトを高く占有するV,Cr,Fe,Coのドーピングによって電気伝導率は増大し、特にVまたはCrのようにA_1サイトを高く占有する元素では著しく増加する。逆にA_1サイトを占有しないZrでは電気伝導率の上昇はわずかであった。そのため、電気伝導率はA_1サイトの占有率で制御することが可能である。B_<105>およびM_xB_<105>のゼーベック係数はフォノン介助ホッピング型のような温度依存性を示し、温度上昇に伴って増加した。Zr以外ではゼーベック係数が減少し、特にVとCrではn型を表す負のゼーベック係数を示した。一方、Zrではドーピングによってp型でβボロンよりも大きなゼーベック係数を示した。出力因子は、温度上昇によって電気伝導率・ゼーベック係数共に増加するため、室温まで上昇し続け、B_<105>よりも室温で最高3-4桁高い出力因子を示すp型(Coドープ)・n型(VまたはCrドープ)双方の材料が得られた。 B_<105>の電気伝導率とゼーベック係数を独立に制御するために、Cr,FeおよびCo,Zrダブル・ドープ試料を作製した。Co_xZr_<1-x>B_<105>試料の電気伝導率・ゼーベック係数はCo量によってほぼ決まり、Zrによる増加はわずかであった。
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