クラスター半導体とは、ボロン系とアルミ系の正20面体クラスター固体である。中心原子の無い正20面体クラスター(B_<12>、Al_<12>)は共有結合性を持ち、ボロン系は真の半導体であり、基本的には金属であるアルミ系も半導体的物性を示す。伝導電子の状態は、前者では局在しておりホッピング伝導を、後者でも局在しかかっておりホッピングとも考えられる特異な伝導機構を持つ。本研究では、ボロン系としてはβ菱面体晶ボロン(βボロン)、アルミ系としてはAlPdRe準結晶、において熱電材料開発を行い、以下の成果を得た。 1)βボロンのA_1サイトに金属元素をドープすることにより、A_1サイト周囲の共有結合が金属結合に転換し、電気伝導率(σ)が効果的に上昇する。特にA_1サイトのみを占有するVの場合に顕著である。 2)ゼーベック係数(S)は、ドープにより減少し、Vの場合は負、Coの場合は正となる。 3)室温以下では、σの温度依存性は可変領域ホッピング伝導的で、Sの温度依存性はフォノン介助ホッピング伝導的である。 4)アーク溶解後に比べ、その後粉砕しホットプレス後では、σやSに大きな影響無く、熱伝導率(κ)を効果的に減少させることができた。この原因は、結晶粒微細化やポーラス組織の形成によると考えられる。 5)Vドープβボロンのホットプレス試料で、P型でボロン系半導体の最高性能を持つB_4Cと同程度の性能指数を持つ、n型材料が得られた。 6)AlPdRe準結晶において、原子数密度と準格子定数の測定から、遷移金属濃度の増大により共有結合性が増大することが分かった。σはあまり変化せず、Sは大きく増大する。これは、共有結合性の増大と、伝導電子数の減少により説明できる。 7)κは、格子の成分が約8割を占め、しかも複雑な構造のため、最小格子熱伝導率に近い値を持つ。 8)無次元性能指数は、600K付近で極大値を取り約0.1であるが、組成に非常に敏感である。ReをRuで置換すると置換量が約5割で、極大値が高温側にシフトし約1.5倍に増大する。
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