研究概要 |
本年度は2つの研究テーマについて研究を行った。まず、チタン酸バリウム単結晶における巨大な圧電特性発現にういう検討した。チタン酸バリウムは室温で正方晶構造をとるが、0℃以下で斜方晶構造を、そして-90℃以下で菱面体晶構造をとる。そこで、[001]及び[111]方向にカットしたチタン酸バリウム単結晶を用いて、種々の結晶構造における圧電特性について検討した。昨年度の室温での結果より、エンジニアード・ドメイン構造にも種類が多数あること、そして、それぞれのエンジニアード・ドメイン構造において、自発分極方向と電場印加方向とのなす角度が小さいほど圧電特性が大きくなることを見いだした。このような観点で予測すると、[001]及び[111]方向に電場を印加した場合、どちらも斜方晶構造で最も大きな圧電特性を得られることになる。実際に実験結果はどちらの方向においても斜方晶構造で最も大きな圧電特性が得られた。更に、斜方晶構造で[001]、[111]方向における違いを比較したところ、[001]方位の方が2倍以上高い値を示した。斜方晶構造で[001]方向に電場を印加した場合、得られるエンジニアード・ドメイン構造は角度45度の4本のドメインで構成されているのに対し、斜方晶構造で[111]方向で得られるエンジニアード・ドメイン構造は角度35.3度の3本のドメインで構成されている。もしも角度だけでかんがえれば[111]方向の方が高い圧電特性を示すはずであるが、結果は逆であった。このことから高い圧電特性を持つエンジニアード・ドメイン構造を得るには、構成するドメインの数が最大で、かつ角度が小さければ良いという設計指針を得ることができた。最終的に、チタン酸バリウムにおいて斜方晶構造で[001]方向を用いることで、圧電定数(d_<33>)500pC/N、電気機械結合係数(k_<33>0.85という現在使用されているPZTセラミックスよりも遙かに高い値を持つことを見いだした。従って、室温で斜方晶構造を有する強誘電体を探索し、その方位依存性を明らかにすることが重要であることがわかった。 続いて、室温で単斜晶構造をとるニオブ酸カリウム単結晶を用いて、その圧電特性を検討した。すでに昨年度において、ニオブ酸カリウム単結晶の単分域化に有効な2段階分極処理法を開発しているが、未だに完全な単分域化した結晶は得られていない。そこで、分極法に加えて切断、研磨の見直しに加え、表面歪み層を除去するため化学エッチングについても検討を行った。1つ1つの操作の最適化に加え、これらの操作の順序や組み合わせについても検討した結果、以下の方法で処理することでほぼ単分域化できることがわかった。最初に大きな塊の状態で分極処理を行う。続いて、必要な大きさに切断、6面研磨し、表面傷及び切断時の歪み層を除去する。更に化学エッチングを行い、研磨によって導入された表面歪み層を除去する。最後に、2段階分極を行う。これら一連の操作を行うことで単分域化したニオブ酸カリウム単結晶を得ることに初めて成功した。これらの試料を用5種類の振動子(31、32, 33, 15, 24)を作製し、ニオブ酸カリウムに存在する5種類の圧電定数を測定した。その結果、31モードで電気機械結合係(k)が0.5近い値と7,000を越える機械品質係数(Qm)を得た。一般にPZTに代表される圧電体ではQmが高い場合にはkは低く、kが高い場合にはQmが低いというように、Qmとkは相反するものであると長い間考えられてきた。しかしながら、ニオブ酸カリウムは高いkと高いQmを同時に併せ持つという従来の常識では存在しない材料であることを初めて見いだした。更に、33振動子、15振動子、24振動子についても検討を行い、単分域化したニオブ酸カリウム単結晶を用いたすべての圧電定数を決定することに成功した。これらの結果は、分極方向における結果であるが、今後はエンジニアード・ドメイン構造をニオブ酸カリウム単結晶中に導入することにより、更なる圧電特性の向上について検討する。
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