研究概要 |
本年度は,分離溶液として濃硝酸系とアンモニア錯塩系とを検討した。 濃硝酸系溶液では,鉄の安定な不働態と銅の化学溶解が達成されたが,スクラップと同様の銅・鉄混合物の形態では,銅に近接する部分で硝酸濃度が局所的に減少し鉄不働態が不安定になった。アノード分極により不働態を維持しようとした場合でも,鉄溶解の速度が大きく,鉄と電力のの損失が大きくなったことから,この処理法は不適当であると判断した。 アンモニア錯塩では,鉄と銅の混合物をアノード分極すると,銅の溶解の電流効率>98%,鉄の溶解の電流効率<0.1%,銅の析出電流効率>90%で,銅の選択的な除去と回収が実験室的に可能であることが実証された。 さらに,最近使用量が増加している表面処理鋼板(亜鉛めっき鋼板)の同時処理を視野に入れた検討を行った。pH9〜11のアンモニア系溶液中で,銅,亜鉛ともに安定な錯塩を形成し,溶解度も大きいこと,さらに銅および亜鉛の錯塩の混合溶液をカソード分極すると,亜鉛は析出せずに銅だけが析出する領域があることが熱力学検討から判明した。この電位とpHの溶液中で,鉄に銅と亜鉛が混合した状態でアノード分極すると,初期に亜鉛が,その後銅が溶解し,電流効率はほぼ95%以上となり,鉄の溶解はおこらなかった。対極で銅を回収するため,デュアルポテンショスタットにより定電位カソード分極して銅の析出を試み,電流効率はほぼ70%まで向上することを確認した。第3極では銅と亜鉛の析出と水素発生が確認された。第3極で回収された金属は銅と亜鉛の合金であるがその組成は変動した。第3極を除いた溶解・回収の電流効率はほぼ80%で,第3極を含めると効率は90%を超えることが確認された。
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