本研究では、Si(111)基板表面上に微傾斜面をつくり、その面上にSiと同じIV族元素であり、しかも格子不整合の大きいダイヤモンド型Sn(α-Sn)を成長させ、その成長形態を安定に制御することを目的とした。我々は、まず実験に先立ち、Keatingポテンシャルを用いた理論計算からα-Sn/Si(111)界面に蓄積される弾性歪みエネルギーを求めたところ、Si(111)微傾斜表面上ではステップによってSn膜中の歪みが効果的に緩和され、臨界膜厚以上のα-Sn擬形態層が成長できることが示唆された。この結果を踏まえ、次に我々は、傾斜角6゜のSi(111)微傾斜表面上に実際にSn薄膜を成長させ、その過程を反射高速電子回折法(RHEED)および走査トンネル顕微鏡法(STM)を用いて評価した。その結果、基板表面からは、微傾斜表面のもつ、(1)テラスが基板表面垂直方向に対して傾いている、(2)テラス幅が非常に狭い、という特徴に起因するRHEEDパターンが得られた。さらにSTMによる観察から、この表面では、(3)ステップが直線的であること、(4)テラス幅が均一でない、ことを明らかにした。このSi(111)微傾斜表面上にSnを蒸着すると、平坦な表面上と同様に、√3×√3-R30゜周期の吸着構造が形成されることが確認された。このとき、余剰のSnはα-Sn相となり、それはSi(111)面から[112]方向に19.5゜傾いたファセットを形成していた。さらにSn成長を続けるとβ-Sn相が出現するが、Snの柔軟な格子伸縮によりα-Sn相が再び誘起され、最終的には膜全体がα-Sn相として安定に成長できることを確認した。これらの結果は、微傾斜表面を用いれば、格子不整合の極めて大きい系においてもヘテロエピタキシャル成長膜の形態を安定に制御することが可能であることを示すものである。
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