研究概要 |
PM3ハミルトニアンの半経験的分子軌道法を用いて、気相ダイオキシン類の熱力学的関数の算出を行った。従来、Benson's Group Addtivity Ruleによりいくつかのダイオキシン類の熱力学的パラメーターが推定されているが、それらは極めて精度の低いものである。本研究では、PM3ハミルトニアンの半経験的分子軌道法を用いて、全てのダイオキシン類(PCDDs,PCDFs,PCBs)ならびにそれらの反応前駆体と考えられる塩化ベンゼン類及び塩化フェノール類の467種の化合物に関する標準生成エンタルピー、標準エントロピー、定圧モル比熱の算定を行った。また、それらの誤差についても言及しており、類似する構造をもつ分子に対する同様の計算から、それらの値が化学的精度(=数kcal/mol)内であることを示した。すべてのダイオキシンの熱力学的パラメーターが化学的精度内で提示されたことは、それらの発生分解挙動の科学的解明研究の上、重要かつ有意義なものである。 C-H-O-Cl系におけるダイオキシン類発生分解挙動の熱力学的研究として、ダイオキシン類(PCDDs,PCDFs,PCBs)の生成分解挙動について酸素ポテンシャル及び塩化水素ポテンシャルの観点から検討を行い、ダイオキシン類の生成分解挙動は塩化水素ポテンシャルよりむしろ酸素ポテンシャルに大きく依存すること、酸素不足下かつ高塩化水素ポテンシャル下で多塩素置換のダイオキシン類が極めて多く生成することを明らかにした。さらに、実操業におけるダイオキシン類の生成抑制の条件として十分な酸素かつ高温雰囲気の下、十分な滞留時間と反応場の均一性に留意することを提言した。これらの提言は、ダイオキシン分解技術の開発に重要な指針を示すものであり、その科学的及び工学的意味は大きいと考えられる。
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