熱力学的にダイオキシンが生成しにくい雰囲気下にも関わらず、重金属を触媒としてダイオキシンが生成するという実験報告がなされている。上記の背景に基づき、本研究では非経験的分子軌道法プログラムGaussian98を用いて、最も触媒効果が顕著である銅存在下におけるPCDD生成反応解析及び触媒効果解析を行った。最適化構造及び全エネルギーの算出には混成functionalであるBeckeの3パラメータ形式(B3LYP)を用いた。この計算方法はHartree-Fock法で不得手をされる重金属原子の電子状態を正確に算出可能であり、かつ遷移状態のような活性状態のそれも精度良く記述できるために、様々な反応解析研究に適用されている。基底関数は、H、C及びO原子に対してsplit valence basis setに分極関数を加えた3-21g^*を使用した。Cu原子に関しては非相対論的効果を考慮するためにNe殻をHay-Wadtの有効内殻ポテンシャルで、原子価の3s3p3d及び4s電子をdouble zeta basis setで記述した。また、Cu(100)結晶表面はC_<2V>対称性を有するCU_<12>クラスターで記述した。Cu-Cu原子間距離は実験値をもとに2.551Åで一定とし、吸着及び表面反応による構造の緩和は吸着種分子のみとした。(これらの計算条件は本研究の目的である反応機構及び触媒効果を定性的に記述するために十分な精度を有することを確認した上で決定している。)本研究で得た知見は以下の通りであった。(1)気相均一相におけるPCDDの生成反応はねじれ構造から平面構造への移行が困難であるため非現実的である。(2)気-固不均一相におけるPCDD生成反応に対する銅の役割は、「前駆物質を吸着させることにより全エネルギーを安定化させる」「吸着した前駆物質のO-H結合を弱くする」「吸着種の平面構造性を保持する」ことであった。(3)気-固不均一相におけるPCDD生成反応に対する銅の触媒効果にみかけの活性化エネルギーを低減することにあった。本研究で得たこれらの知見はダイオキシン分解技術の開発に対して重要な知見を与えるものであり、その科学的・工学的意義は大きいと考えられる。
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