遺伝子を組換えた微生物の糖鎖発酵により、人間がデザインした糖鎖を生産させるためその基本となる微生物としてStreptococcus agalactiaeIa株を選定した。 この微生物は、ガン抗原アナログであるシアリルラクトサミンポリマーを夾膜多糖として生産し、このポリマーは試験管内の実験でガンの血行性転移を阻害することが明らかになっている。我々はすでにこの菌から糖鎖の合成に関する遺伝子をクローン化しその構造を決定した。そこで本研究では 1.糖鎖発酵を実現するために糖鎖の生産性の向上 2.新しい糖鎖を生産するために類縁菌S.Agalactiae Ib株からのガラクトース転移酵素のクローン化などを行った。 1.糖鎖生産性向上のため、S.Agalactiaeの糖鎖生産遺伝子オペロンの調節について検討した。その構造からこのオペロンを正に制御していると考えられるcpsIaR遺伝子産物を大腸菌で大量生産し、このオペロンのプロモータ部位への結合をゲルシフト法で調べたところ、cpsIaRタンパクはcpsIaA遺伝子上流プロモータとcpsIaR自身に結合することがわかった。次年度は、このタンパクを過剰発現させ糖鎖の生産性を向上する。 2.遺伝子工学的手法により外来の糖鎖転移酸素遺伝をを導入し、新しい糖鎖を生産することを目的として、S.Agalactiaeの一種で構造の少し違う糖鎖を合成するIb株からβ-1-3ガラクトース転移酵素遺伝子をクローン化した。一方、この酵素の遺伝子と入れ替えをはかるS.Agalactiae Ia株の相当する部位について細かく解析したところ、Ia株のβ-1-4ガラクトース転移酵素遺伝子とすぐその隣にあるN-アセチルグルコサミン転移酵素遺伝子が共存して、はじめてβ-1-4ガラクトース転移酵素活性が発現することが判明した。これは2つの酵素が複雑に相互作用し複合体を形成することを示唆しており、外来遺伝子を導入した糖鎖工場を作製する時の問題点のひとつと考えられる。
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