Streptococcus agalactiaeの夾膜多糖はNeu-Gal-GlcNAc-Gal-Glcというシアリルラクトサミンのポリマーであるが、これはガン抗原として知られるシアリルLe^a及びLe^x糖鎖のアナログであり、応用上価値が高い。我々はこの多糖合成酵素遺伝子を組込んだ大腸菌を用いて、この糖鎖やそのアナログを合成する糖鎖発酵の実用化をめざして研究を進めている。 本年度はまず大腸菌におけるこの糖鎖発酵の成否をにぎる生産性の向上をはかるため、この遺伝子群の発現制御について検討した。すでに我々が分離しているtype Ia株の制御タンパク遺伝子と想定されるcpsIaR遺伝子を他の糖鎖合成遺伝子とともに大腸菌へ導入したところ、糖鎖合成酵素レベルが顕著に上昇した。またStreptococcus agalactiae typc Ia株を25%ショ糖存在下という高浸透圧で培養したところ、CpsIaRをはじめ、他の糖鎖合成酵素レベルも上昇し、CpsIaRが糖鎖合成を正に制御することが判明した。これにより糖鎖発酵実用化のひとつのめどが立ったと言える。 一方、すでにクローン化済みのCpsIaJ(β1-4ガラクトース転移酵素)の基質特異性について検討した。細菌由来の糖鎖合成酵素は脂質キャリアーに糖鎖を附加するものが多く、この点がヒトが設計した糖鎖を生産する糖鎖発酵のネックとなっている。そこで種々の基質について検討したところ、このガラクトース転移酵素は活性に脂質キャリアーを要求せず、GlcNAc-Gal-Glcの3糖にガラクトースを転移できることが判明した。したがってこの酵素はガン抗原やガングリオシドの合成に応用できると考えられる。
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