研究概要 |
昆虫細胞-バキュロウイルス系を用いた機能性タンパク質の高生産バイオリアクタープロセスを構築するための基礎を確立することを目的として,本年度は,スピナーフラスコ(spinner flask)を用いた懸濁培養における昆虫細胞の増殖およびウイルス感染後の組換えタンパク質(β-galactosidase)生産に及ぼす撹拌速度などの影響の解析,および細胞内情報伝達のカギを握る酵素であるprotein kinase C(PKC)の一つであるPKC-δの生産特性について検討を行った. まず,スピナーフラスコを用いて種々の撹拌速度で懸濁培養を実施したところ,細胞の比増殖速度や到達細胞密度は撹拌速度によらずほぼ一定であり,細胞増殖に対して大きな影響を及ぼさなかった.ところが,撹拌速度が大きくなると組換えタンパク質の生産速度や生産量が減少し,組換えタンパク質生産が阻害を受けた.これは,ウイルスの細胞への感染が阻害されるためではなく,ウイルス感染後の組換えタンパク質の発現そのものが阻害されているためであることが示唆された. また,血清添加培地または無血清培地を用いた振とう培養を行い,タンパク質リン酸化活性測定法または酵素免疫測定法を用いて,細胞内および細胞外におけるPKC-δの発現過程を定量的に追跡した.無血清培地を用いた培養では,培養後期において細胞外のPKC-δの濃度が大きく低下した.しかしながら,種々のプロテアーゼインヒビターを無血清培地に添加して培養を行ったところ,セリン/システインプロテアーゼのインヒビターであるleupeptinを添加することにより培養後期におけるPKC-δ濃度の減少を抑制できることがわかった.
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