研究概要 |
本研究の目的は,ナノスケール三次元元素分析法の開発・装置化である。この手法及び装置は,これまで開発もしくは解明されていない以下のような事項を詳細に検討した上で実現されるものである。すなわち,(1)ビーム径が数ナノメートルの超細束一次イオンビームの開発,(2)長時間安定で精密なビーム走査制御技術の開発,(3)迅速かつ適切な処理を可能とする三次元データ解析システムの開発,(4)収束イオンビーム加工断面の形状・化学状態の解明である。 研究の初年度にあたる本年度は,主として上述の課題1と2に関する検討を行った。この検討結果に基づき超細束一次イオンビーム装置ならびに精密ビーム制御装置を開発し,既存のガリウム収束イオンビーム(Ca-FIB)二次イオン質量分析(SIMS)装置の一次イオン光学系とすることにより,ナノスケールFIB SIMS法の主要部が開発・装置化された。試作した装置を用いて,金蒸着微粒子表面のイオン励起二次電子像観察を行い,10nm程度の高い面方向分解能での顕微機能が実現されたことを確認した。この結果は,本試作装置によりナノメートルオーダーでの超高空間分解能三次元分析が可能であることを示唆する。また課題4に関して,FIBによる精密加工断面形状をコンピュータ・シミュレーションを用いて詳細に検討した。加工断面形状はイオンビーム径・電流密度ならびに断面の法線方向ビームの走査速度に大きく依存し,より細束なイオンビームを極めて低速で走査することにより断面加工を行うことが,精密な試料断面を得るためには有効であることが明らかとなった。さらに,精密断面加工に基づく局所定量分析の際の分析信頼性に関して実験的な考察を行った。この結果,多元素同時検出システムを用いれば,通常のSIMS装置に導入されている単チャンネル検出システムを用いた場合よりも,12.1〜19.1%程度の分析信頼性の向上が見込めることがわかった。
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