静水中の推進性能推定に用いられる三次元推定法の多くは、近年では波浪中への応用も試みられて来はじめたランキンパネル法であり、計算コストなどの観点から見ても十分に実用的と言える。初年度は、(1)ランキンパネル法を用いて、静水中での推進性能の推定を完全非線形理論に基づき推定するためのソフトウエアーを開発し、特に船首フレアの影響を計算に反映させることができるようにした。続いて、(2)そこで得られた定常波場の影響を取り入れて波浪中の非定常問題を求解する手法をランキンパネル法をベースにして開発した。更に、(3)実用面において適用成果が特に期待されている肥大船に対してどの程度の推定精度向上が望めるのかを水槽実験を行うことにより検証した。これらの研究を通して、低周波数域での非定常流場の理論推定精度の向上、並びに船首近傍流場の物理現象の実験による把握が次なる課題として挙がってきた。 そこで二年度目は、(4)低周波数域に対して、船体近傍にランキンパネル法を、船体遠方にグリーン関数法を適用するいわゆるハイブリッド法を適用した理論計算法を開発し、放射条件を精度良く満足させることにより低周波数域での推定精度の向上を図った。また、(5)細長船型を用いた水槽実験を実施し、開発した理論計算法の推定精度の検証を行った。(5)の水槽実験を通じて得られた結果に対してこれまでに開発した数値推定法による数値計算を実施してみたところ、肥大船型の場合と比べてはるかに良好な推定精度が維持できることが分かった。同時にまた推定精度は、要素分割数を増加することにより改善されることが判明した。数値計算の際の船首近傍での要素分割の仕方が非常に重要であることが確認されたことになる。また、(4)で開発した方法により、これまで適用が不可能であった低周波数域においても、同様の数値推定法が適用できるようになった。
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