研究概要 |
植物に青色光を照射して栽培すると,葉中のカロテノイド量が増加するという報告がある。カロテノイド類の構成成分のうちβ-カロテン,キサントフィルのアンテラキサンチン,ゼアキサンチンは,光合成にとって過剰な光エネルギーを熱として消去する機能を持つことから,青色光を植物に長期間照射すると植物の光阻害回避能力が高められるのではないかと予想された。そこで,本年度はこの予想を検証するために,コマツナを材料として長期間の青色光照射が葉のカロテノイド量と個体の乾物生産性に与える影響について調査を行った。栽培光源には,青色,赤色および3波長白色蛍光ランプを使用し,光合成有効光量子束密度250μmol m^<-2>s^<-1>で15日間栽培した. 個体の全乾物重は白色光下で成育したコマツナで顕著に大きかったが,赤色光および青色光下で成育したコマツナの全乾物重の間に有意差はなかった。葉中の葉面積あたり総カロテノイド量の平均値は赤色光下で大きく,青色光下と白色光下では同じであった。光合成にとって過剰な光エネルギーの消去機能を担うβ-カロテン,アンテラキサンチン,ゼアキサンチンの総カロテノイドに占める割合も,それぞれ青色光下で特に大きいという傾向は認められなかった。以上の結果は,青色光を長期間照射する栽培によって,コマツナの光阻害回避能力を向上させることはないということを示している。しかしながら,赤色光下でコマツナを栽培した場合,白色光下での栽培よりも葉面積あたりの総カロテノイド量が増加するという新たな知見が得られた。この知見は,施設栽培において,赤色光の照射または補光によって葉菜類の有用成分であるカロテノイド量をより一層増加させうることを示す興味深いものである。
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