亜鉛はインスリン様作用やインスリン増強機能を有し、3T3-L1細胞において脂肪細胞分化を促進することを報告したが、ウシはインスリンに対する感受性が低く、亜鉛がウシの脂肪細胞分化に効果があるかどうかは不明である。そこで、ウシ脂肪前駆細胞の初代培養系を用いて、亜鉛が脂肪細胞分化に及ぼす影響について検討した。また、亜鉛は一酸化窒素合成酵素(NOS)活性を抑制することが知られており、亜鉛がNO産生に及ぼす影響、およびNOが脂肪細胞分化に及ぼす影響についても併せて検討した。 肥育牛の筋間脂肪組織からコラゲナーゼ消化により脂肪前駆細胞を含む間質脈間系細胞群を調整し、これを播種しコンフルエントまで培養した後、第一実験ではインスリンを含む5%FBS含有DMEM/Ham'sF12培地と含まない培地の両方に塩化亜鉛を0から100μMの濃度で添加し、14日間培養した。また第二実験ではNOS阻害剤であるL-NAMEを0μMから500μMの濃度あるいはNO供与体であるNOC18を0から100μMの濃度を含む培地に置換し、14日間培養した。いずれの実験でも脂肪細胞分化の生化学的な指標であるGPDH活性および細胞中トリアシルグリセライド(TG)含量を測定した。また、培地中NO濃度をNO_2+NO_3濃度をグリース法により測定することで推定した。結果、インスリンの有無に関係なく、亜鉛の添加によりGPDH活性および細胞中TG含量は濃度依存的に上昇し、また、NO産生は濃度依存的に抑制された。さらにL-NAME添加によりNO産生は阻害され、GPDH活性および細胞中TG含量は上昇し、NOC18添加によりGPDH活性および細胞中TG含量は有意に減少した。このことから、亜鉛による脂肪細胞分化促進作用の一部はNO産生抑制を介していることが示唆された。
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