研究概要 |
本研究は,植物細胞の分化・成長に係わると推定される糖蛋白質糖鎖の生理機能の詳細を解明するとともに,それら糖鎖のシグナリング機能を利用した植物成長コントロール技術開発の基礎を確立することを目的とする。 平成13年度にはイネ培養細胞よりエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(endo-OS)を単一精製後,種々酵素学的性質を明らかにしていたが,平成14年度には詳細な基質特異性を明らかにした。即ち,他の植物エンドグリコシダーゼと同様endo-OSにはα1-2Man残基を認識するサブサイト構造が存在するが,α1-2Man残基が形成する分枝構造の違いが反応速度に重要な影響を与えることが明らかになった。このことは,endo-OSが特定構造のハイマンノース型糖鎖を認識し,その代謝に関与することを示唆している。 更に14年度には,イネエンドグリコシダーゼの部分アミノ酸配列を基に遺伝子クローニングを完了した。ホモロジー検索の結果から,本酵素は現在までに報告されていない新しい遺伝子にコードされていることが分かった。現在,本酵素の大量発現系の構築を行っている。更に,イネ培養細胞内の遊離N-グリカンの構造特性分析を行い以下の知見を得た。イネ培養細胞の可溶性画分には,endo-OSにより生成したと考えられるハイマンノース型糖鎖(Man9-5GlcNAc1)が140.1nmol/gの濃度で存在していたが,それに対し還元末端にGlcNAc2残基を有する植物複合型糖鎖(Man3Fuc1Xyl1GlcNAc2)は1.2nmol/g程度の存在量であった。細胞壁画分と培養液画分からはハイマンノース型糖鎖が少量(0.79nmol/細胞壁g)確認されたが,植物複合型糖鎖(GlcNAc2-1Man3Fuc1Xyl1GlcNAc2)は培養液画分にのみ見出された(5.1nmol/ml)。以上の結果から,エンドグリコシダーゼは細胞質に存在しハイマンノース型糖鎖の遊離を司り,生成した遊離型糖鎖は主に細胞質中で何らかの生理機能を担っていることが推察された。
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