Rho低分子量G蛋白質はアクチン細胞骨格系を制御することが知られており、Rho-アクチン系の異常は、がん細胞の浸潤、転移をはじめ種々の病態に関与していると考えられている。したがって、Rho-アクチン系に関与する蛋白質の機能修飾物質が、これらの病態の診断薬や治療薬に用いられる可能性が高い。また、出芽酵母では、Rhoは細胞壁合成に関わるグルカン合成酵素の活性も制御している。したがって、Rho-アクチン系の研究は抗真菌剤の開発にも役立つと期待される。 本研究では、Rhoの標的蛋白質であるBNI1の作用機構について解析し、BNI1がアクチン系、また微小管系も制御するオーガナイザーであることを明らかにしてきた。すなわち、BNI1の変異株では細胞質微小管の方向が異常となって核の分配の方向が乱れることを明らかにした。また、Rhoからアクチン細胞骨格へのシグナル伝達経路が明らかにされるにつれ、アクチン依存モーターであるタイプI型ミオシンがアクチン系の制御に重要な役割を果たしている可能性が出てきた。そこで、タイプI型ミオシンに結合する新規の蛋白質としてMTI1(Myosin tail domain interacting protein)を単離した。MTI1は、SH3ドメインとproline-richなドメインを有する新規アダプター蛋白質である。一方、Wiskott aldrich-syndromeの原因遺伝子がコードするWASPに結合する蛋白質WIP(出芽酵母ではVRP1)が、タイプI型ミオシンを正に制御することが明らかにされている。本研究で、MTI1がVRP1とantagonisticに作用することにより、アクチンのポリメリゼーションを負に制御している可能性が高いことを明らかにした。(投稿準備中)このように、酵母アクチン系の制御の新しい側面を明らかすることに成功し、新規機能修飾物質のスクリーニング系の開発の基礎部分を終了することができた。以上のように、本研究は着実に進展させることができた。
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