研究概要 |
Wolfram症候群は,若年発症のインスリン依存型糖尿病,視神経萎縮を主徴とし,中枢性尿崩症,聴力障害,尿路異常などを合併する常染色体劣性遺伝性疾患である.我々はその原因遺伝子を同定し,WFS1遺伝子と名付けた.WFS1蛋白は既知の蛋白と相同性がなく,その機能は不明である.本年度は,初年度に明らかにしたWFS1蛋白の組織及び細胞内局在についてさらに詳細な検討を加え,WFS1蛋白が大脳辺縁系の一部を中心とした中枢神経系の限られた神経細胞の細胞体及び近位樹状突起に発現されること,細胞内では主として小胞体膜に存在することを明らかにした.また,WFS1蛋白の発現調節機構についての解析を行い,ER stress,なかでもカルシウムイオノフォアによりその発現が誘導されることを見いだした.現在,ER stressに対する細胞応答とWFS1蛋白の機能との関連について検討を加えている. 絶対的なインスリン分泌不全を特徴とする1型糖尿病は,自己免疫が関与する1A型及び自己免疫が関与しない1Bに分類される.この1B型糖尿病の発症因子の1つとしてWFS1遺伝子変異が関与する可能性について,自己抗体陰性の1型糖尿病患者21人についてWFS1遺伝子の解析を行うことにより検討した.その結果,アミノ酸置換を伴うもの6種類を含む,12種類の塩基置換を同定したが,糖尿病患者に特異的な変異は存在しなかった.一方,Wolfram症候群の遺伝子診断法を確立するためには,多数のWolfram症候群の患者について遺伝子解析を行い,変異の多様性,genotypeとphenotypeの関連について明らかにする必要がある.現在,この点についての解析も進めている.
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