研究概要 |
本年度は、ストレスの影響としては過去2年次に引き続き,有機スズによる海馬障害についての実験を行い,また,ストレス+栄養欠乏という複合曝露のモデル実験系として,合成副腎皮質ホルモンであるデキサメタゾン投与をストレスの,セレン欠乏を栄養欠乏のそれぞれモデル因子として実験をおこなった. 1.有機スズによる海馬障害モデル.トリメチルスズは,海馬に神経細胞の脱落を主とした障害を引き起こすが,これは副腎摘出で増悪し,副腎皮質ホルモン投与で抑制される.細胞死の機序からこの現象を解明するため,海馬領域におけるトリメチルスズによるアポトーシスをTUNEL法によって検討した.その結果,トリメチルスズ投与によって海馬にアポトーシスが起こり,これが副腎摘出で増悪,グルココルチコイド投与で抑制されることを見出した. 2.複合曝露モデル.対照餌およびSe欠乏餌で8から9週間飼育したマウスにデキサメタゾン(1.0mg/kg)を3日問連続投与した後,以下の機能試験を実施した.デキサメタゾンの投与は,Sapolskyらの慢性ストレスモデルで用いられている量を採用しており,3日間で若干の体重減少をきたす量であった.なお,昨年度の検討によって近交系の中で最もSe欠乏に対する感受性の高かったC57B1系を用いた.オープンフィールド試験:活動性・情動性をテストしているとされる行動試験で,昨年度の検討においてはSe欠乏によって活動性が高まることがC57BLをはじめとする複数系統において観察された.本年度の検討では,Se欠乏による活動亢進を確認することができなかったが,デキサメタゾン(DEX)投与でやや活動が減少する傾向を認めた.一方でDEX投与によって,オープンフィールド活動はやや抑制された.また,Se欠乏動物の肝・脳について,イソプロスタンを用いて酸化ストレスの亢進を評価した.
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