研究概要 |
近年の環境保健問題一般に共通する傾向として,複数の環境要因が相加的に作用して単一の健康障害を惹き起こすことがあげられる.本研究の目的は,このような複数の環境要因の相対的重要性を評価するためのアプローチを開発することである.脳機能の障害は,高齢化の進行する現在,ますます重要性を増しつつあると考えられる上,最近話題になっている多くの化学物質が何らかの形で脳機能にも影響を及ぼすことを考えると,複合要因を考えるモデルとして好適であると思われる. 本研究では,環境要因による脳機能障害のモデルとして,ストレスによる海馬機能障害の系と,セレン欠乏---線条体機能障害の系を用いた.前者については,同じく海馬を障害することが明らかになってきたトリメチルスズへの曝露との複合作用を中心に後者については合成コルチコステロイドとの複合作用を解析することにより,栄養-ストレス系という2つの異なる系の相互作用を検討した.また,これらのモデルの検討に入る前段階で検討したマンガンによる線条体障害の行動学的検討ならびに細胞外グルタチオンの測定についても予備的検討を行い,それぞれに興味深い結果を示したので,併せて本報告に含めた.本研究の結果,海馬障害系においては,トリメチルスズによる障害が副腎摘出でむしろ増強され,グルココルチコイド投与で障害が抑制されるという従来の予想に反する結果を得た.線条体系では,離乳後のセレン欠乏で神経行動機能に影響が起こりえることを初めて示すことができたが,デキサメタゾンを用いたストレスとの複合曝露では,相互作用を認めなかった.脳線条体の微小透析を用いて酸化ストレス・レドックス制御との関連が深い細胞外グルタチオンを定量し,過酸化水素あるいは鉄キレーターが影響を及ぼすことを明らかにした.
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