研究概要 |
カドミウムなど重金属の毒性を軽減する蛋白質としてメタロチオネインが知られている。メタロチオネインはカドミウムや亜鉛によってその合成が誘導され,合成されたメタロチオネイン蛋白質はカドミウムと強固に結合してその毒性を軽減する。マウスを用いたこれまでの検討で,組織中メタロチオネイン濃度に系統差が認められ,メタロチオネイン濃度が低い系統のマウスほどカドミウムの毒性が発現しやすいことが報告されている。このことから,人間においてもメタロチオネイン濃度に個体差がある可能性が考えられる。本研究は,人間の組織中メタロチオネイン濃度の個体差を明確にすると共に,その原因を解明することを目的とする。まず,法医解剖検体103例について腎臓中のカドミウムおよびメタロチオネイン濃度を測定した。その結果,腎臓中メタロチオネイン濃度は25μg/g tissueから1500μg/g tissueと非常に広い範囲に分布した。この腎臓中のメタロチオネイン濃度をカドミウム濃度と比較したところ両者の間には非常に高い相関(r=0.892)が認められた。この結果から,腎臓中のメタロチオネイン濃度はカドミウムの蓄積に伴って上昇するものと考えられ,人間においては腎臓中カドミウム濃度の違いがメタロチオネイン濃度の個体差の主たる理由と判断された。今後はカドミウムがほとんど蓄積しないと考えられる白血球などを用いてメタロチオネイン濃度の個体差を検討する予定である。
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