向精神薬の脳内作用機序を臨床において評価する方法として、PETを用いて生体の脳内で向精神薬が標的とする神経伝達系への作用を測定する方法がある。本研究の目的は、PETを用いて健康人母集団における神経伝達機能の三次元・生体・神経伝達機能・標準脳図譜を作成し、それを向精神薬の薬効や副作用との関連解析に応用しようとするもので、以下の結果を得た。1)健康人のD2受容体分布に関するPET研究:健康人における[11C]FLB457のPET画像では、線条体だけではなく視床や側頭葉などの大脳皮質において高い結合能が認められた。2)未治療分裂病患者の線条体以外の脳部位のD2受容体分布に関するPET研究:分裂病群では対照群に比べて、前帯状回において有意なD2受容体結合能の低下を認めた。また、陽性症状得点の高いものほど、前帯状回のD2受容体結合能が低い相関が得られた。3)リスペリドンの受容体占有に関するPET研究:抗精神病薬リスペリドン単剤治療中の7例の患者で、[11C]FLB457を用いて、帯状回、側頭葉、海馬、扁桃体の辺縁系D2受容体占有率を調べた。その結果、線条体D2受容体占有率は従来、ハロペリドールなどで報告されている値とほぼ同一で、受容体占有の辺縁系選択性は確認できなかった。さらにD2受容体占有率の経時的変化を調べた結果、リスペリドンでは血中濃度の減少に比し、大脳皮質ドーパミンD2受容体占有率の減少の程度は少なく、血中濃度が低下しても脳内では高い受容体占有率が維持されていた。一連の研究成果から、PETと脳画像標準化法を用いることによって、向精神薬の中枢作用が定量的にかつ詳細に評価可能であり、同方法を用いることによって、より適切な用量、用法の提唱を含む、合理的薬物療法の開発が可能になると思われた。
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