研究概要 |
血管内挿型人工血管(stent graft)システムによる胸部大動脈瘤の低侵襲治療を臨床に導入する際には、とくに治療中の重大な合併症である脊髄虚血障害の発生が重大問題であり、その予防対策に関する検討が必要であり解決すべき要件である。今年度は、新たに独創した脱着可能な回収装置の臨床応用に向け、拡張固定および収縮回収機能の精度を向上させ、内挿型人工血管を永久留置する方法について検討した。 1)胸部下行大動脈の血流遮断に伴う脊髄虚血発生の危険性を評価する目的で新たに開発した回収装置を米国食品医薬品管理局(FDA)で臨床使用が認可され入手可能なstent graft(AneuRex^R,Medtronic社)およびFDA認可はないがヨーロッパを中心に臨床使用されているstent graft(Talent^R,Medtronic社)に装着し実験的血流回路内でシミュレーションすることでその運搬および拡張収縮機能を確認することができた。その結果、回収用の連結線を縦方向に収束させるだけでなく、各連結線を横方向に交叉させる構造およびその長さをカテーテル先端部分で変化させる工夫により、機能をさらに改善することができた。 2)内挿した人工血管を永久留置するために回収装置から離断する方法として、フック型あるいはねじ型の着脱装置を開発し、これを回収用連結線とは別のチャンネルを介して運搬用シースカテーテル内に装填することによって、永久留置機能の精度を向上させるこができた。 3)回収装置付きstent graftを用いた胸部大動脈瘤の治療については、胸部大動脈内に安定して内挿固定する永久留置用のstent graftを国外より輸入する手続きが困難であり、今回の研究期間内での臨床使用を断念した。以上より、stent graftを血管内で離断留置または回収することが可能なシステムの開発と実験的検証が完了した。
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