研究概要 |
血管内挿型人工血管(stent graft)による胸部大動脈瘤の低侵襲治療の際には、重大な合併症である脊髄虚血障害の予防対策が必須である。そこで、教室で既に開発した脊髄誘発電位測定による虚血予知法の有用性を検証し、さらに着脱可能な回収装置を独創して虚血の評価後にstent graftを永久留置する方法を検討した。 胸部下行遠位部大動脈瘤42例を対象とし、血管内で拡張および収縮回収できる一時留置型stent graftを血管内超音波により位置確認しつつ一時的に内挿し、誘発電位によって虚血障害の予知を行った。全例で誘発電位に変化なく、その後に永久stent graftを内挿した。対麻痺の発生率は0%であり、文献的上の発生率7%と比較し、有意に低率であることが証明された。 複数のステンレス製誘導線を多チャンネルカテーテルシース内に格納できるstent graft回収装置を設計製作した。これに米国企業製造のstent graft(AneuRex^R,Talent^R,Medtronic社)を装着し、画像処理用コンピューターを使用して胸部大動脈瘤の3-DCT画像から作成したシミュレーション回路を用い、装置の回収動作が正確に行われることを確認した。さらに、連結線を縦方向に収束させるだけでなく、各連結線を横方向に交叉させる構造とカテーテル先端部分の長さを変化させる工夫により、機能を改善することができた。 内挿した人工血管を永久留置するために回収装置から離断する方法として、フック型あるいはねじ型の着脱装置を開発し、これを回収用連結線とは別のチャンネルを介して運搬用シースカテーテル内に装填することによって、永久留置機能の精度を向上させるこができた。 一時留置型stent graftの臨床的検討により、胸部下行大動脈瘤に対する安全な低侵襲治療の可能性を証明することが出来た。さらにstent graftを回収あるいは永久留置することが可能なstent graft回収システムを開発した。
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