研究概要 |
良性脳腫瘍における悪性化機序を検討するため,まず髄膜腫のCGH解析と臨床評価,MIB-1染色,LSC,p53遺伝異常と対比した.髄膜腫の再発例ではp53遺伝子異常から予後推察は困難であるが、組織学的に悪性度や増殖能は高まるにつれCGH上の特異的染色体異常が加わることが明らかになった。一方下垂体腺腫や神経鞘腫では再発症例における染色体,遺伝子異常の獲得はなかった。ゴナドトロピン産生型silent functioning adenomaは染色体異常が少なく細胞遺伝学的にはnon-functioningと同様の腫瘍であった.聴神経鞘腫症例では22番欠失とX染色体の異常が高頻度に見られたが他の脳腫瘍に比べ異常の数は少なかった。CGH解析上染色体不安定性の乏しくFISH解析上もheterogeneityに乏しい良性脳腫瘍は経過良好であった。再発症例では増殖能が高まったが染色体異常獲得は認められなかった。また中枢神経系リンパ腫は全身性リンパ腫と類似する染色体異常を呈しDNA aneuploidy症例ではdiploid症例に比べ染色体異常が有意に多かった。またグリオーマのなかで予後良好とされるpilocytic astrocytomaのpilot studyの解析では、症例によって極めて多彩な異常を有することが示され臨床評価を行なっている。染色体の複雑な構造異常を詳細に検出しうるspectral karyotyping法を用いて構造異常の解析を行った.悪性グリオーマでは異なる細胞株に7種類の共通した染色体構造異常が認められ、低レベルにDNAコピー数が増幅する部位は転座もしくは挿入の構造異常を高率に伴っており、このような遺伝子わずかな増幅と転座、挿入の関係はHSRやDMとは異なる遺伝子増幅の形であった。髄膜腫などの良性脳腫瘍の解析ではこのような異常がなく、悪性脳腫瘍に特有の変化であると考えられた。
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