研究概要 |
目的:良性脳腫瘍における遺伝学的亜型や悪性化機転の際の遺伝学的異常はこれまで十分には検討されていない。悪性腫瘍は一般に腫瘍の進展とともに遺伝子異常を獲得していくことが知られている。良性脳腫瘍においても遺伝子学的変化を調べその生物学的特性から悪性転化の機序について調べることは重要である。本研究ではcomparative genomic hybridization(CGH)法を用いて良性脳腫瘍の細胞遺伝学的異常について検討し、腫瘍の再発や悪性化に附随する異常について検討した。方法:CGH解析とlaser scanning cytometer(LSC)法により、髄膜腫、下垂体線腫、神経鞘腫の他、種々の原発性脳腫瘍について細胞遺伝学的異常を検討した。また染色体構造異常とDNAコピー数の異常との関係を調べるため、spectral karyotyping(SKY)を神経膠腫において検討した。 結果:良性髄膜腫における染色体異常の数は、異型髄膜腫や悪性髄膜腫に比べ有意に多かった。CGH上、1p loss,6q loss,10 loss,14q loss,20q gainが髄膜腫の悪性化に重要な変化であることが明らかになった。Functioning adenomaはnon-functioning adenomaに比べ染色体異常の数は有意に多かった。またDNA aneuploid症例はdiploid症例に比べ異常の数が多く、染色体不安定性が著しいことがわかった。Silent functioning adenomaは臨床症状を呈するfunctioning typeに比べ染色体異常は少なかった。聴神経鞘腫症例では22番欠失とX染色体の異常が高頻度に見られたが他の脳腫瘍に比べ異常の数は少なかった。CGH解析上染色体不安定性の乏しくFISH解析上もheterogeneityに乏しい良性脳腫瘍は経過良好であった。頭蓋内原発性リンパ腫は中枢神経系外のリンパ腫とほぼ同様の異常が認められた。神経膠腫の細胞株の構造異常を解析したところ、DNA増幅と染色体の転座や挿入が極めて密接に関係していることが明らかになった。結論:今後さらなる細胞遺伝学的解析により良性脳腫瘍の生物学的特性が明らかになり、亜型分類やgenetic pathwayの解明が可能になると考えられる。
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