痛みの情報伝達におけるATP受容体の役割に関する神経・行動薬理学的研究

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11557115
• 研究種目: 基盤研究(B)
• 研究機関: 国立医薬品食品衛生研究所
• 研究代表者: 井上 和秀 国立医薬品食品衛生研究所, 薬理部, 室長 (80124379)
• 研究分担者: 上野 伸哉 福岡大学, 医学部・薬理学教室, 講師 (00312158) ; 津田 誠 国立医薬品食品衛生研究所, 薬理部, 研究員 ; 小泉 修一 国立医薬品食品衛生研究所, 薬理部, 研究員 (10280752)
• キーワード: ATP受容体 / 痛み / 侵害受容器 / 電気生理学 / 疼痛モデル / 後根神経節ニューロン

研究概要

痛みの発生や疼痛反応閾値に及ぼすATP受容体の役割を行動薬理学的手法により疼痛モデルを作成して検討した。痛みは末梢で発生し、DRGニューロンにより脊髄にまで伝えられ、そこでシプナス伝達を介して脊髄後角ニューロンに伝えられ、さらに上位の中枢へと伝達される。そこでまず、末梢での痛み誘発におけるATP受容体の役割を検討するためにラット足掌にα,β-methyleneATPを投与したところ、1nmolという低濃度で強い痛み行動を引き起こし、その強さはブラジキニンにほぼ匹敵し、プロスタグランジンE2やセロトニンよりも強いと考えられた。末梢でATP受容体を刺激することにより痛みが誘発されることが明らかとなった。次に、DRGニューロンから後角ニューロンへのシプナス伝達におけるATP受容体の役割をホルマリンテストおよびカプサイシンテストで検討した。その結果、両テストにおいてATP受容体ブロッカーPPADSは強力に用量依存的に疼痛作用を抑制した。このことから、ATP受容体はこのシプナス伝達において痛み情報を伝えるための重要な働きをしていることがわかった。では、ATP受容体が痛み伝達を直接になっているのであろうか。αβmeATP髄腔内投与により熱刺激に対する痛覚過敏反応が誘発されることをすでに明らかにしたので、これを指標にしてこの可能性を検討した。その結果、P2X受容体拮抗薬を用いることでαβmeATP誘発痛覚過敏反応はP2X3受容体を介していることを示唆できたが、この痛覚過敏は神経伝達物質放出阻害剤やNMDA受容体拮抗薬を用いることで完全に抑制されることがわかった。このことは、脊髄後角に終末する一次知覚神経(C-繊維)末端部に存在するP2X3受容体の活性化がglutamate遊離を誘発させ、遊離されたglutamateによるNMDA受容体の活性化が痛覚過敏反応を引き起こしている可能性を示唆している。

研究成果

• [文献書誌] S.Ueno,M.Tsuda,T.Iwanaga and K.Inoue: "Cell type-specific ATP-activated responses in rat dorsal root ganglion neurons"Br.J.Pharmacol.. 126. 429-436 (1999)
• [文献書誌] M.Tsuda,S.Ueno and K.Inoue: "In vivo pathway of thermal hyperalgesia by intrathecal administration of α,β-methylene ATP in mouse spinal cord : Involvement of glutamate-NMDA receptor system"Br.J.Pharmacol.. 127. 449-456 (1999)
• [文献書誌] K.Nakazawa,K.Inoue and Y.Ohno: "Block and unblock by imipramine of cloned and mutated P2X2 receptor/channel expressed in Xenopus oocytes"Neurosci.Lett.. 264. 93-96 (1999)
• [文献書誌] M.Tsuda,S.Ueno and K.Inoue: "Evidence for the involvement of spinal endogenous ATP and P2X receptors in the nociceptive responses caused by formalin and capsaicin in mice"Br.J.Pharmacol.. 128. 1497-1504 (1999)
• [文献書誌] J.S.Rhee,Z.M.Wang,J.Nabekura,K.Inoue and N.Akaike: "ATP facilitates spontanoeous glycinergic IPSC frequency at dissociated dorsal horn interneurone synapses"J.Physiol.(Lond.). (in press). (2000)
• [文献書誌] A.Tomioka,S.Ueno,K.Kohama,F.Goto,K.Inoue: "Propofol potentiates ATP-activated currents on recombinant P2X4 receptor channels expressed in human embryonic kidney 293 cells"Neurosci.Lett.. (in press). (2000)
• [文献書誌] Inoue K.,Koizumi S.,Ueno S.,Kita Y.,Tsuda M.: "Nucreotides and their receptors in the nervous system"The function of ATP receptors in the synaptic transmission in the hippocampus. 193-206 (1999)