研究概要 |
ATP受容体刺激によって引き起こされる疼痛反応アロディニアを我々は見いだし,その責任受容体および発現メカニズムについて研究した.このアロディニアは、モルフィンが奏効しにくい難治性の痛みであり臨床上最もペインコントロールが困難な痛みの一つと考えられている神経因性疼痛の主症状アロディニア(異痛症)に類似している.本研究により,この疼痛反応はイオンチャネル型P2X受容体あるいはGタンパク結合型P2Y受容体刺激で引き起こされること,しかもそれぞれで関与する後根神経節ニューロンの種類が異なることを明らかにした.すなわち,一つはラット足掌のP2X2+3ヘテロマー受容体(P2X2およびP2X3分子が異種同士で会合して一つの機能チャネル受容体を形成したもの)刺激により引き起こされるものであり、これは生後すぐにカプサイシン処理を施した動物(後根神経節ニューロンのうちC-線維神経が脱落する)でも認められることから、C-線維は介在していないことを明らかにした.もう一つは、次の結果によりP2Y2類似の受容体刺激によることが判明し,これはC-線維に依存していた.すなわち,RT-PCR解析によりラット後根神経節(DRG)ニューロンではいくつかのP2YサブタイプのmRNA発現が認められた.DRGニューロンを急性単離してカルシウムイメージングにより薬理学的な手法により検討した結果、細胞外カルシウムに依存した細胞内カルシウム上昇がATPおよびUTPで認められ、これらの反応はPLC阻害剤で抑制された.これらの機能的P2Y受容体刺激が痛みを誘発するか否かを行動薬理学的に検討した.その結果、P2Y2アゴニストUTPにより著明なアロディニアが発現したことから、P2Y2刺激によってもアロディニアが発現することがわかった.このアロディニアはP2X系のアロディニアよりも発現持続時間が遙かに長い(刺激後3-4時間持続)ことから、ATP受容体はイオンチャネルを介する系とGPCRファミリーを介する系とで作用機序の異なるアロディニアを発現する可能性が認められた.
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